その1に引き続き今度は3年生と4年生についてです。6年間のちょうど中間の年です。
世にも奇妙な畜大生の学生生活を少しだけでも覗いていってください。
その1は以下のリンクからご覧になれます。
帯広畜産大学で獣医学を学んだ6年間 その13年生 〜微生物との闘い〜
3年生の時間割です。
一つの時間が2つとか3つに分かれているのは、それぞれ7.5週や4週で終わる授業だからです。このような授業は午前中の1限と2限で連続して行われます。
4週授業なんかは短時間で多くの情報を詰め込まれますが、5週目にはすぐにテストがあるので気を抜けません。
一つの科目が終わると次の科目が始まります。
このように学期の途中で終わる授業が多くあるので、その分テストも多くなり、毎月何かしらのテストがある状態となります。
3年と4年で病理学の単位は多くあるが、一番初めの授業。炎症、壊死、化生などの組織の異常の原因や仕組みなどを学び、それらの病変を示す代表的な動物の病気について学ぶ。病理学の基礎を身につけることができる。
中枢神経作用薬、循環器作用薬、呼吸器作用薬、利尿薬、内分泌系作用薬、止血薬、抗凝固薬、抗悪性腫瘍薬、抗感染症治療薬、中毒治療薬、駆虫薬、殺虫薬、消毒薬について学ぶ。とりあえず覚える薬の名前が多かった。3年前期で一番の鬼門。
コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科などウイルスには多くの種類があり、ウイルス科ごとに増殖環や病原性が異なる。ウイルスの構造から人や動物に感染症を引き起こすウイルス種を学ぶ。
細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、真菌の分類や性状、病原性について学ぶ。ウイルス学とともに3年後期から本格的に始まる感染症学の基礎知識となるうえに、4年前期学ぶ食品衛生系の科目の理解にも欠かせない。
寄生虫の基礎的な事柄を学習した後、吸虫類、条虫類、線虫類および鉤頭虫類などのメジャーな寄生虫について分類、形態、生活環、病原性、疫学について学ぶ。
動物や人間に害を与える原虫について、その分類、形態、生活環などを学び、診断法や治療法についても学習する。また、原虫を媒介する節足動物(ダニ、昆虫)についても勉強する。
3年前期は細菌、ウイルス、寄生虫、原虫などの微生物の勉強と薬理学が主な授業。2年生は解剖学で自分の身体よりも大きい牛などの勉強をしていたのに、突然スケールが小さくなりました。
これらは動物に感染し様々な症状を引き起こします。中には鳥インフルエンザ、口蹄疫、豚熱などの生産者に大きな経済的打撃を与え、食の安心・安全を脅かすもの、また狂犬病、トキソプラズマ、ライム病などのように動物だけでなく人間にも感染するものがあります。
これらの感染症を理解するためには、まずその原因となるものを理解しなければなりません。そういった意味で獣医学部ではこの”小さな生物”の勉強に多くの時間を割きます。
僕のように動物のお医者さんになりたくて獣医学部に入った学生は「犬や猫の病気を治したくて獣医学部に入ったのになんで細菌とかの勉強をしなければならないんだ」と思いましたが、6年終えて振り返ってみるとその大切さがしみじみと分かります。
余談ですが、医学部では9割以上の学生が臨床の道(つまり病院で働くこと)に進みますが、獣医学部では小動物臨床が40%で大動物診療が10%で合わせて50%程度です。(下の画像参照)
つまり所謂「動物のお医者さん」になるのは獣医全体のうち半分程度なのです。残りの半分のうち20%を公務員が占めるのですが、この方達は食の安全や公衆衛生などの分野に携わります。といってもあんまりイメージわきませんよね。
東京都庁の採用ページに獣医師の募集があり、公務員獣医師の業務内容が分かりやすく説明されていたので引用します。
獣医
と畜検査などの食品衛生確保、家畜飼養者に対する衛生技術指導、家畜伝染病の発生予防検査、犬の捕獲収容業務などに携わります。また、食品・医薬品・感染症・環境などの健康危機から都民を守るための試験検査などを行います。【主な配属先】家畜保健衛生所 / 動物愛護相談センター / 食肉衛生検査所 / 健康安全研究センターなど
東京都庁HP 採用職種
このように獣医師には診療(いわゆる動物のお医者さん的なこと)を生業としない人が大勢います。
食品衛生の分野で働くには細菌、ウイルスなどの知識を持っていることが大前提ですので、そのような理由もあり獣医学部ではこれらの勉強に力を入れます。
細菌、ウイルス、寄生虫は普段の生活やニュースでもよく耳にするのでご存じの方は多いと思います。
しかし、「原虫」は一般にあまり知られていないのではないでしょうか。
上に貼った時間割表を見ると、水曜1限に「原虫病学」がありますね。
原虫とは単細胞の微生物のことを指し、非常に複雑な細胞の構造と生活環を持っています。よく知られているものでは、マラニア、アメーバ、トキソプラズマなどがこの仲間です。
獣医領域ではバベシアやタイレリアなどがよく知られており、畜産業に大きな被害をもたらします。
ちなみに畜大には「原虫病研究センター」があり、原虫の研究がとても盛んに行われています。
日本で唯一の原虫病研究拠点であると同時に、国際獣疫事務局(OIE)のコラボレーティングセンターにも指定されており、国内外の当該分野の研究者の中でかなり有名な施設となっています。
留学生も非常に多く(日本人学生よりもおそらく多い)、畜大内で最も国際色あふれる研究棟となっています。
なぜ小さい奴らが大切か、ということを長々と説明してしまったので次に移ります。
3年前期で一番大変だったのは薬理学でした。人間では薬剤師さんが調剤をしますが、獣医師は自ら調剤することが求められています。そのため、薬に関することも薬学部ほどではありませんがかなり勉強します。勉強と言っても暗記がメインでしたが、覚える量が半端ではないのでとても苦労しました。3年の山場はこの薬理学のテストでしたね。
次に実習について。「微生物学実習」では培地に細菌をまいて培養したり、「寄生虫学実習」では顕微鏡で標本を見てスケッチを描き、教科書を読んでその内容をレポートにまとめたりしました。
印象に残ってるのが寄生虫学実習でみんなでマダニの採取に行った時。
大学近くの川沿いの草藪に白い布をあてながら歩いてマダニの採取をみんなで行いました。しかし、開始10分ぐらいで大雨が降り出して結局すぐにとんぼ返りすることに、、
40人でやったのにマダニを捕まえられたのは2人しかいませんでした笑
実習的には残念な結果となりましたが、みんなで雨に打たれながら大学まで歩いて帰ったのは良い思い出です。
3年生では時間割の画像のように空きコマがとても少なく、自分の時間が少なかったことを覚えています。その限られた時間で、代表を務めていたゼニ研に関することや、留学の準備などをしなければならず、加えてバイトもしてゆっくりできた時がほとんどなかったです。本当に辛かった、、
ただ、長い時間をかけて用意した甲斐もあり留学の奨学金を獲得することができ、アザラシの調査も参加して充実した時間を過ごすことができました。人間少し忙しいくらいが良いのかもしれませんね笑
夏休みが始まりました。最初と最後の1週間はアザラシの調査でしたが、その間で新潟県の佐渡島に行き、2週間の実習に参加しました。
実習先は「佐渡トキ保護センター」と「野生復帰ステーション」で、新潟県を通じて実習を申し込みました。
野生復帰を控える朱鷺のケージや車の接近訓練を見学したり、ケージ内にある池にエサ用のドジョウを放したりしました。施設で一番広いのが「順化ケージ」で幅50m×奥行き80m×高さ15mもあり、驚くことに中には人工の川や田んぼがありました。
ここには放鳥直前の朱鷺が収容されるのですが、なるべく自然界に近い状態にする目的でこのような工夫が凝らされています。
この2ヶ所での実習がメインだったのですが、先方の計らいによって佐渡市と環境省の実習にも1日ずつ参加させていただきました。
佐渡市での実習では修学旅行で来ている小学生のビオトープ作りに参加させていただきました。
佐渡市では朱鷺が住みやすい環境を作るためにエサ場となるビオトープの整備に力を注いでいますが、それを島内の人はもちろんのこと島外の人にも体験してもらって朱鷺の保護をより身近に感じてもらうようにしているそうです。
環境省の実習では朱鷺の足環の識別や、明け方に朱鷺が巣から飛び去っていく観察をしました。
ちょうど環境省の職員に獣医師の方がいて、キャリアパスなどを聞かせていただいたのもいい経験となりました。こういう道もあるんだなと。
夏休みも終わり、3年後期が始まりました。
時間割は以下の通りです。
病理学の各論。「循環呼吸器」、「消化器」、「神経・運動器」、「泌尿器」の各々の臓器の代表的な疾患の病理変化や組織像、加えて発生機序を勉強する。総論よりも特定の病気について深く学び、臨床において診断や治療法を決めるときに必要よされる知識が身に付く。
産業動物と伴侶動物の代表的な伝染病について原因、発症機序、疫学、症状、治療法について学ぶ。特に産業動物の伝染病は覚えることが多いが、国試でも頻出の分野である。
以下のリンクから、家畜の監視伝染病全てを確認できる。
食の安全を守るとともに、家畜の疾病を防ぎ農場の生産性を上げるためには衛生管理が不可欠である。畜舎衛生、搾乳衛生、周産期病、分娩管理などについて学び、農場の適切な衛生管理に必要な知識を身につける。
生物多様性や野生動物の生態や繁殖、絶滅危惧種の保全について学ぶ。法制度や政策についての授業もある。大学で野生動物について学べる科目はこれのみ。しかし、希望者は4年次の夏休みに開催される「野生動物学演習」に参加することができた。
内科学とは?から始まり、診断を下すために必要な考え方をまず学ぶ。その後、循環器疾患、呼吸器疾患、神経疾患などの主要な症状、検査、鑑別診断を勉強する。
動物の病気を診断する上で不可欠である、血液検査、細胞診、尿検査、糞便検査について学ぶ。臨床に行く人はとても重要な知識。特に血液検査と細胞診の知識は国試でもよく問われる。
魚類の解剖学、生理学などの基礎的なことから、細菌性疾病、ウイルス性疾病、原虫性疾病、寄生虫性疾病などの個別の病気についても学ぶ。国試でも必ず出題されるので意外と馬鹿にできない。卒後に魚の知識が必要になることはまずないけど。
3年後期は伝染病と病理学が大きなウェイトを占めました。
家畜で伝染病が発生すると経済的に大きな被害がありますし、現在卵の値段が上がっているように食卓にも影響を与えます。この様な理由で獣医学部では伝染病の勉強をかなり重点的に行います。犬猫の伝染病もありもちろんそれらも勉強しますが、やはり家畜の方がウェイトが大きいです。国家試験でも伝染病は頻出の分野です。
伝染病学実習では細菌やウイルスの同定や診断方法について学びました。
病理学とはその名の通り病気の原理について詳しく学ぶ科目です。ある病気がどの様な仕組みで発生し、組織にどんな影響を与えるかを勉強しました。病気と一概に言っても様々なものがあるので「循環・呼吸器病理」「消化器病理」「泌尿器病理」「神経・運動器病理」など身体を部位別に分けて体系的に学びました。
病理総論実習では個々の病気についてではなく、それらを理解するのに必要な知識となる細胞障害、細胞死、組織の修復、炎症などの様相を顕微鏡を用いて観察し、スケッチをしました。
意外なところでは魚病学でしょうか。獣医学部では魚の勉強も少しだけするんです。確か獣医師でなければ魚にワクチンや決められた薬を打つことができないといった決まりがあったと思います。国家試験にも毎年6題ほど出されます。
ですが、卒業後に魚の獣医師になる人はほとんどいませんし、そもそもみんなあまり興味がないので、真面目に授業受けてる人は少なかったかな、、。
3年後期はサークルの代替わりの時期です。
ゼニ研の代表は11月あたりで後輩に引き継いだため、ようやくサークル関連の様々な仕事から解放されました。
ですが、留学を半年後に控えていたので、その準備で頭を悩ませていました。
ワクチン接種はお金もかかりましたし、帯広では受けられない種類のものがあって苦労しました。
A型肝炎、B型肝炎のワクチンは問題なかったです。
しかし、黄熱のワクチンは北海道では新千歳空港でしか接種することができず、しかも平日しか実施していないとのことでした。
そのため、授業を1日休んで帯広から運転して接種しに行きました。
ワクチンを1本打つためだけに片道3.5時間程度かけて移動するのは少し馬鹿馬鹿しかったですが、黄熱のワクチンを接種していないと入国を断られる国もあるので背に腹は変えられず。。。
狂犬病のワクチンは3回接種しなければいけないのですが、決められた期間を空けて接種する必要があるので、自分のスケジュールと照らし合わせて、ワクチンプログラムを組むのが大変でした。狂犬病ワクチンに関しては、出国後に海外で受けた方が良かったと気づくんですけどね。
ワクチン以外の準備では、クレジットカードを1枚しか持っていなかったため複数枚用意したり、大学の休学の手続き、寮を1年間離れるため荷物を整理したりなどあり、特に年が変わってからはテストもあるのに、他にも考えることがたくさんあって大変でした。
ちなみに、留学に伴い1年休学するため、同級生と一緒に授業を受けることができるのはこの学期が最後でした。
1年生の春から授業や実習を40人全員で受けてきたので、これはとても悲しいことでした。
3年生最後の授業は病理学の実習だったのですが、授業後に友達がサプライズでクラッカーなどを用意してくれて門出を祝ってくれました。最後にみんなで写真を撮っていい思い出になりました。
3月は一旦実家に帰省して準備を整えてから留学に向かいました。留学については他の記事をご覧になってください。